特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)とは?規定すべき主な条項などを解説
公開日 2026年10月8日 監修 弁理士(登録番号 19728)・SPECIAL FLOWER特許事務所 代表 下茂 力
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特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)とは、特許権者が他人に対して、その特許発明を実施することを許諾する契約です。自社で実施しない技術から収益を得る、あるいは他社の技術を使わせてもらう。どちらの立場でも使います。
ライセンスには専用実施権と通常実施権の2種類があり、性質がまったく違います。とくに重要なのは、専用実施権を設定すると、特許権者自身が実施できなくなることです。ここを理解しないまま契約すると、後で動けなくなります。
この記事では、2つの実施権の違いから始めて、契約書に必ず規定すべき条項、実施料(ロイヤリティ)の決め方、そして実務で揉める箇所を説明します。
- 専用実施権と通常実施権の違い(独占性・登録・差止請求)
- 独占的通常実施権という中間の選択肢
- 契約書に規定すべき主な条項
- 実施料の決め方(一時金・ランニング・料率の相場)
- 改良発明の扱いと、独占禁止法の注意点
- 契約後に必要になる手続
長岡技術科学大学大学院修士課程修了。2001年国内特許事務所入所、2013年弁理士試験合格、2015年群馬工業高等専門学校非常勤講師、2026年SPECIAL FLOWER特許事務所設立。特許事務所において20年以上、電子デバイス・機械要素を中心に国内外の特許出願・拒絶理由対応に従事。この記事は、上記の弁理士が内容を確認しています。
実施権の種類 ── 専用実施権と通常実施権
| 専用実施権 | 通常実施権 | |
|---|---|---|
| 独占性 | あり | なし |
| 特許権者自身の実施 | できなくなる | できる |
| 重複して設定できるか | 同じ範囲では不可 | 何人にでも可 |
| 効力の発生 | 特許庁への登録が必要 | 許諾の合意で発生 |
| 差止請求 | 自分でできる | できない |
| 損害賠償請求 | 自分でできる | できない |
専用実施権は、特許権者を縛ります
専用実施権を設定すると、その範囲では特許権者自身も実施できなくなります(特許法68条ただし書)。自社で製造・販売を続けるつもりなら、専用実施権は設定できません。
また、登録しなければ効力が生じません。特許庁への登録が効力発生要件です。
通常実施権は、ただ「差し止められない」権利
通常実施権は、特許権者から訴えられない立場を得るだけです。他社が同じ発明を実施していても、止めることはできません。
中間に、独占的通常実施権があります
実務で最も多いのが、この形です。契約上「他にライセンスしない」と約束させた通常実施権です。
| 独占的通常実施権 | |
|---|---|
| 独占性 | 契約上はあり(他にライセンスしない義務) |
| 登録 | 不要 |
| 特許権者自身の実施 | 契約次第(完全独占とするなら禁止する条項を置く) |
| 差止請求 | できない |
登録が不要で柔軟なぶん、差止請求ができないのが弱点です。侵害者が現れたら、特許権者に動いてもらうしかありません。だから契約書に「侵害者が現れた場合、特許権者は必要な措置を講じる」という条項を入れておきます。
ライセンスの交渉で「独占的に使わせます」「独占で使わせてください」という話になったとき、それが専用実施権なのか独占的通常実施権なのかで、結果がまったく変わります。専用実施権を設定すると特許権者自身が実施できなくなり、しかも登録しなければ効力が生じません。
SPECIAL FLOWER IP LAW FIRM の初回相談では、事業の実態をうかがったうえで、どの形が適切かをお示しします。
契約書に規定すべき条項
| 条項 | 書くこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 許諾する特許 | 特許番号、発明の名称 | 出願中のものを含めるか |
| 実施権の種類 | 専用/通常/独占的通常 | 最重要 |
| 許諾の範囲 | 地域・期間・内容 | 生産だけか、販売も含むか |
| 実施料 | 一時金、ランニング、算定の基礎 | 後述 |
| 報告と監査 | 実施数量の報告義務、帳簿の閲覧 | ランニングなら必須 |
| 再実施許諾(サブライセンス) | 可否 | 原則は不可としておく |
| 改良発明 | 帰属と、相互の実施 | 独占禁止法に注意 |
| 保証と免責 | 有効性の保証、第三者の権利の非侵害 | 特許権者は保証を限定したい |
| 不争義務 | 無効審判を請求しない義務 | 独占禁止法上の問題あり |
| 侵害への対応 | 第三者の侵害を発見した場合の措置 | 独占的通常実施権では重要 |
| 有効期間・解除 | 期間、更新、解除事由 | 特許が無効になった場合の扱い |
| 存続条項 | 秘密保持、報告済み実施料の支払 | — |
許諾の範囲は、3つの軸で切ります
- 地域:日本全国か、特定の地域か
- 期間:契約期間。特許の存続期間を超えられません
- 内容:生産・使用・譲渡・輸出・輸入のどれを許すか。数量の上限を設けることも可能
「日本国内において製造および販売する権利」のように、必ず限定して書いてください。限定がないと、全部を許諾したことになります。
実施料(ロイヤリティ)の決め方
3つの方式
| 方式 | 内容 | 向く場面 |
|---|---|---|
| 一時金(イニシャル) | 契約時に一括 | 事業規模が読めない場合。権利者に有利 |
| ランニング | 売上高や数量に応じて継続的に | 最も一般的 |
| 併用 | 一時金+ランニング | 実務では多数 |
ランニングの算定基礎
- 売上高比例:純売上高に料率を掛ける。最も多い
- 数量比例:1個あたり◯円。単価が安定している場合
- 利益比例:利益に料率。利益の定義で揉めるため、実務では避けられる傾向
売上高比例を選ぶ場合、「純売上高」の定義を必ず書いてください。返品、値引き、運賃、消費税を控除するかどうかで金額が変わります。
料率の目安
| 分野 | 料率の目安(売上高比) |
|---|---|
| 機械・装置 | 2〜5% |
| 電気・電子 | 1〜5% |
| 化学・材料 | 2〜6% |
| 医薬 | 5〜15% |
| ソフトウェア | 3〜10% |
これはあくまで目安です。実際には、その特許が製品全体のどれだけを占めるか、代替技術があるか、市場の成熟度はどうか、といった要素で決まります。
ミニマムロイヤリティ
独占的なライセンスでは、最低実施料を定めるのが通例です。独占を与えたのに相手が実施しないと、特許権者は収入も得られず自分でも実施できない、という状態になるためです。
最低額に達しない場合は非独占に切り替える、という条項を置くのが実務的です。

自社で実施しない技術をライセンスに回す、という使い方は、株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著『自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方』(日本法令・568頁)で扱われています。
本記事に対応するのは第4編 第1章 第1 特許権(1)販売です。(ア)ライセンスビジネスと独占販売、(イ)ライセンスビジネス、(ウ)独占販売という構成で、それぞれ一般論と実例が示されています。(ア)(iii)コラム Special Flower®の特許には、実際にライセンス事業を運営した経験が書かれています。
改良発明と独占禁止法
改良発明の扱い
ライセンスを受けた側が、その技術を改良することがあります。その改良発明を誰のものにするかを決めておかないと、後で必ず揉めます。
- 実施権者に帰属させる(原則)
- 特許権者に無償で実施させる(グラントバック)
- 共有にする
ここで独占禁止法が関わります
公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」により、次のような条項は問題となる場合があります。
| 条項 | 評価 |
|---|---|
| 改良発明を特許権者に帰属させる(アサインバック) | 原則として不公正な取引方法となるおそれ |
| 改良発明を特許権者に独占的にライセンスさせる | 同上 |
| 改良発明を特許権者に非独占的に実施させる | 原則として問題とならない |
| 不争義務(無効審判を請求しない義務) | 問題となる場合がある |
| ライセンス終了後の実施禁止 | 期間・範囲によっては問題 |
| 販売価格の拘束 | 原則として違法 |
「改良発明はすべて当社のものとする」という条項を、権利者側は入れたがります。しかし、これは独占禁止法上のリスクを抱えます。非独占の実施権(無償のグラントバック・ノンアサート)にとどめるのが安全です。
権利者側は「改良発明はすべて当社に帰属する」と書きたくなります。しかし、改良発明を特許権者に帰属させる条項(アサインバック)は、原則として不公正な取引方法となるおそれがあります。公正取引委員会の指針に明記されています。
非独占の実施権にとどめる、という着地が実務的です。初回相談のお申し込みはこちら。契約書の案をお持ちいただければ、条項ごとに確認します。
実務で揉める箇所
① 特許が無効になったら、実施料はどうなるか
契約後に無効審判で特許が無効にされることがあります。無効審決が確定すると、特許権は初めから存在しなかったことになります。
既に支払った実施料の返還を求められるか。これは争いのあるところで、契約書に定めておくべき事項です。実務では「無効が確定しても、既払いの実施料は返還しない」と明記することが多い。
② 実施料の算定基礎
「純売上高」の定義です。返品・値引き・運賃・保険料・消費税を控除するか。ここを曖昧にすると、毎期の報告のたびに争いになります。
③ 報告と監査
ランニング方式では、実施権者の自己申告に頼ることになります。帳簿の閲覧権(監査権)を定めておかないと、正しいかどうかを確認できません。
監査の頻度、費用の負担、差異が出た場合の精算方法まで書いておきます。
④ 第三者が侵害してきたとき
独占的通常実施権者は、自分では差止請求ができません。特許権者に動いてもらう必要があります。
「特許権者は、実施権者の求めにより、必要な措置を講じる」という条項を入れておかないと、権利者が動かない場合に手詰まりになります。
⑤ 契約終了後の在庫
契約が終わった時点で、実施権者の手元に製品が残っていることがあります。「契約終了後◯か月に限り、既製品の販売を認める」という条項(セルオフ条項)を入れておきます。
契約後に必要な手続
専用実施権は登録が必要です
登録しなければ効力が生じません。特許庁に専用実施権設定登録申請書を提出します。登録免許税は、1件につき15,000円です。
通常実施権は登録不要です
2012年の法改正で、通常実施権は登録しなくても、特許権が第三者に譲渡された場合に対抗できるようになりました(当然対抗制度・特許法99条)。
それ以前は登録が必要でしたが、現在は不要です。この点は古い情報が残っていることがあるので注意してください。
源泉徴収
実施料の支払いには、源泉徴収が必要な場合があります。とくに、非居住者・外国法人への支払いは原則として20.42%の源泉徴収が必要です(租税条約による軽減あり)。
消費税
国内の実施許諾は課税取引です。国外への許諾は、原則として輸出免税の対象になります。
① 専用実施権を設定すると、自分が実施できなくなります。
意外に知られていない条文です。特許法68条ただし書により、専用実施権を設定した範囲では、特許権者自身も実施できません。「独占的に使わせる」という話の流れで専用実施権を設定し、後から自社で製造しようとして動けなくなる。この事故が実際にあります。自社で実施を続けるつもりがあるなら、専用実施権は選べません。独占的通常実施権にして、契約で「特許権者自身の実施は妨げない」と明記するのが実務です。
② 独占的通常実施権者は、自分で差し止められません。
独占的通常実施権は、登録が不要で柔軟なため実務でよく使われます。ただし、第三者が侵害してきたとき、実施権者は自分で差止請求ができません。独占の対価を払っているのに、模倣品を止められない。特許権者に動いてもらうしかありません。だから契約書には「特許権者は、実施権者の書面による求めにより、侵害者に対し必要な措置を講じる」という条項を必ず入れます。権利者が動かない場合の扱い(実施料の減額など)まで書いておくと、なお確実です。
③ 「純売上高」の定義が、毎期の争いを決めます。
ランニング方式では、実施料は「純売上高×料率」で計算されます。ところが「純売上高」が何を指すかを書いていない契約書が、驚くほど多い。返品、値引き、運賃、保険料、消費税。これらを控除するかどうかで、金額は数%変わります。数%は、売上が大きいほど無視できない額になります。控除する項目を列挙し、それ以外は控除しない、と書いてください。あわせて、帳簿の閲覧権と監査の手続も定めておく。ここを詰めておくと、契約期間中の関係が穏やかになります。
よくある質問
Q. 専用実施権と通常実施権は、何が違いますか。
専用実施権は独占的で、特許権者自身も実施できなくなり、登録が効力発生要件です。実施権者は自分で差止請求・損害賠償請求ができます。通常実施権は非独占で、登録不要、差止請求はできません。
Q. 独占的通常実施権とは何ですか。
契約上「他にライセンスしない」と約束させた通常実施権です。登録不要で柔軟なため実務で最も多い形ですが、差止請求はできません。侵害者が現れた場合は特許権者に動いてもらう必要があります。
Q. 実施料の相場はどのくらいですか。
売上高比で、機械・装置2〜5%、電気・電子1〜5%、化学・材料2〜6%、医薬5〜15%、ソフトウェア3〜10%が目安です。ただし、その特許が製品全体のどれだけを占めるか、代替技術があるかで大きく変わります。
Q. 改良発明は、誰のものになりますか。
契約で定めます。ただし「改良発明を特許権者に帰属させる」条項は、独占禁止法上、原則として不公正な取引方法となるおそれがあります。非独占の実施権にとどめる(無償のグラントバック)のが安全です。
Q. 通常実施権は登録が必要ですか。
不要です。2012年の法改正で当然対抗制度が導入され、登録しなくても特許権が第三者に譲渡された場合に対抗できるようになりました。古い情報では登録が必要とされていることがあるので注意してください。
Q. 特許が無効になったら、実施料は返ってきますか。
争いのあるところです。契約書に定めておくべき事項で、実務では「無効が確定しても既払いの実施料は返還しない」と明記することが多い。定めがないと、後で大きな紛争になります。
Q. 海外の会社にライセンスする場合、注意点はありますか。
実施料の支払いに源泉徴収が必要です。非居住者・外国法人への支払いは原則20.42%(租税条約による軽減あり)。また、国外への許諾は消費税の輸出免税の対象になります。準拠法と紛争解決手段(仲裁か訴訟か)も定めてください。
まとめ
- 実施権には専用実施権と通常実施権があり、性質がまったく違う
- 専用実施権を設定すると、特許権者自身も実施できなくなる(特許法68条ただし書)。登録が効力発生要件
- 実務で最も多いのは独占的通常実施権。登録不要で柔軟だが、差止請求ができない
- 許諾の範囲は地域・期間・内容の3軸で限定して書く
- 実施料は一時金とランニングの併用が多い。「純売上高」の定義を必ず書く
- 独占的なライセンスでは最低実施料を定める
- 改良発明を特許権者に帰属させる条項は、独占禁止法上問題となるおそれ
- 通常実施権は2012年から登録不要(当然対抗制度)
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四法(特許・実用新案・意匠・商標)の出願書類の様式と記入例、費用の削減、権利の活かし方までを1冊にまとめた手引きです。著者は当事務所とは別組織の会社の代表ですが、自分で出願を進めたい方に、当事務所の初回相談でもお勧めしています。
自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方
株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著/日本法令/2026年8月刊/A5判568頁/5,500円(税込)/ISBN 978-4-539-73180-2
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