特許が認められる条件とは?新規性と進歩性がポイント
公開日 2026年10月29日 監修 弁理士(登録番号 19728)・SPECIAL FLOWER特許事務所 代表 下茂 力
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特許が認められる条件は、大きく言えば「新しいこと」と「簡単には思いつかないこと」の2つです。法律の言葉では新規性と進歩性。この2つで、審査の結果の大半が決まります。
新規性は分かりやすい。出願前に世の中に知られていなければ、新規性があります。難しいのは進歩性です。新しくても、既知の技術を組み合わせただけ、材料を置き換えただけ、では認められません。拒絶理由の圧倒的多数が、この進歩性です。
この記事では、新規性と進歩性の判断の仕方を審査基準に沿って説明し、進歩性で拒絶されないために、出願書類に何を書いておくべきかを示します。
- 特許の要件の全体像(新規性・進歩性が中心)
- 新規性の判断基準と、自社の公開で失う場合
- 進歩性の判断の4ステップ(審査基準)
- 進歩性が否定されやすい例・認められやすい例
- 「効果」をどう書けば進歩性の主張になるか
- 拒絶理由通知への応答で使える反論
長岡技術科学大学大学院修士課程修了。2001年国内特許事務所入所、2013年弁理士試験合格、2015年群馬工業高等専門学校非常勤講師、2026年SPECIAL FLOWER特許事務所設立。特許事務所において20年以上、電子デバイス・機械要素を中心に国内外の特許出願・拒絶理由対応に従事。この記事は、上記の弁理士が内容を確認しています。
特許の要件 ── 全体像
| 要件 | 条文 | 内容 | 実務での重さ |
|---|---|---|---|
| 発明であること | 2条1項 | 自然法則を利用した技術的思想の創作 | ソフトウェア・ビジネス方法で問題になる |
| 産業上の利用可能性 | 29条1項柱書 | 産業で利用できること | 医療行為等を除きほぼ満たす |
| 新規性 | 29条1項 | 出願前に公然と知られていないこと | 重要 |
| 進歩性 | 29条2項 | 当業者が容易に発明できないこと | 最重要。拒絶理由の大半 |
| 先願 | 39条 | 最先の出願であること | — |
| 拡大先願 | 29条の2 | 先の出願の明細書に書かれていないこと | — |
| 記載要件 | 36条 | 明確性・実施可能性・サポート要件 | 明細書の書き方で決まる |
| 不特許事由 | 32条 | 公序良俗に反しないこと | — |
審査で問題になるのは、ほぼ新規性・進歩性・記載要件の3つです。そのうち、拒絶理由通知の大半が進歩性です。
新規性 ── 出願前に知られていないこと
特許法29条1項は、次のいずれかに当たる発明は特許を受けられないと定めています。
- 出願前に日本国内または外国において公然知られた発明(公知)
- 出願前に日本国内または外国において公然実施された発明(公用)
- 出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(文献公知)
「公然」とは
不特定の者が知り得る状態です。1人でも秘密保持義務のない第三者に知られれば、公然です。
自社の行為で失います
- 展示会への出展
- カタログ・ウェブサイトへの掲載
- プレスリリース
- 学会発表・論文
- 製品の販売
- 秘密保持契約なしの営業説明
出願前にこれらを行うと、自分の発明で自分が拒絶されます。
新規性喪失の例外(30条)
自分の行為で公開した場合、公開から1年以内に出願し、その旨を申し出て30日以内に証明書を提出すれば、その公開は新規性の判断で考慮されません。ただし、
- その公開を見た第三者が独自に出願していれば、その出願には負けます
- 外国では、この例外が使えない国が多い
新規性の判断
審査官は、請求項に書かれた発明と、先行文献に書かれた発明を対比し、すべての構成が一致すれば新規性なしと判断します。1つでも違う構成があれば、新規性はあります。だから、新規性で拒絶されることは、進歩性ほど多くありません。
進歩性 ── 当業者が容易に思いつかないこと
特許法29条2項は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が、先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、特許を受けられないと定めています。
「当業者」とは
その分野の平均的な技術者。特別な才能はないが、その分野の技術常識をすべて知っており、公知の技術を組み合わせる程度のことは普通にできる、という仮想の人物です。
審査基準の判断手順
- 請求項に係る発明を認定する
- 主引用発明を選ぶ(最も近い先行技術)
- 発明と主引用発明の一致点・相違点を認定する
- 相違点について、当業者が容易に想到できたかを判断する。副引用発明や技術常識を組み合わせて相違点を埋められるか、その組合せの動機づけがあるか
「動機づけ」の4つの観点
審査官は、主引用発明に副引用発明を組み合わせる動機づけがあるかを、次の観点で見ます。
- 技術分野の関連性
- 課題の共通性
- 作用・機能の共通性
- 引用発明の内容中の示唆
これらがあれば「組み合わせるのは容易」とされ、進歩性が否定されます。
進歩性が否定される例・認められる例
否定されやすい(審査基準が「容易」とする類型)
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 設計変更 | 寸法や形状を最適化しただけ |
| 材料の置換 | 金属を樹脂に変えただけ(効果が予測できる場合) |
| 単なる寄せ集め | AとBを並べただけで、相互作用がない |
| 公知技術の転用 | 他分野で知られた技術を、そのまま持ってきた |
| 均等物による置換 | ネジをリベットに変えた |
| 数値限定 | 範囲を限定したが、その範囲に特別な意味がない |
認められやすい(進歩性を肯定する方向の事情)
| 事情 | 内容 |
|---|---|
| 有利な効果 | 引用発明にはない、または予測できない効果がある |
| 阻害要因 | 引用発明を組み合わせることを妨げる事情がある(組み合わせると機能しない、技術常識に反する等) |
| 相反する効果の両立 | 従来は両立しないとされていた2つの効果を同時に実現 |
| 数値限定に臨界的意義 | その範囲の内外で効果が質的に変わる |
| 長年の課題の解決 | 業界で長く解決されなかった問題を解決 |
組み合わせただけでも、その組合せで予測できない効果が出ていれば、進歩性は認められます。
既存技術の組合せでも、その組合せで予測できない効果が出ていれば、進歩性は認められます。逆に、効果を具体的に書いていなければ、どれだけ工夫があっても「容易」とされます。分かれ目は、発明の内容より、効果の書き方にあることが多い。
SPECIAL FLOWER IP LAW FIRM の初回相談では、発明の内容をうかがい、どの効果をどう書けば進歩性の主張になるか、どの実験データを出願時に入れておくべきかを整理します。
「効果」の書き方が、進歩性を決める
進歩性の主張は、効果で行います。そして、その効果は明細書に書いてあるものしか使えません。
明細書に書いておくべきこと
- 課題:従来技術の何が問題だったか
- 手段:それをどう解決したか(構成)
- 効果:その結果、何がどう良くなったか。できれば数値で
- 比較:従来技術と比べてどれだけ違うか
「効果」は具体的に
| 弱い書き方 | 強い書き方 |
|---|---|
| 「効率が向上する」 | 「従来比で処理時間が40%短縮される(実施例1)」 |
| 「耐久性に優れる」 | 「10万回の繰り返し試験で破断が生じなかった。従来品は2万回で破断」 |
| 「使いやすい」 | 「片手で操作でき、かつ誤操作率が従来の1/5になった」 |
出願後に効果を追加することはできません
新規事項追加の禁止により、出願時の明細書に書いていない効果は、後から主張できません(明細書の記載から当業者が推認できる範囲を除く)。だから、実験データや比較データは出願時に入れておきます。
阻害要因も書いておく
「従来はAとBを組み合わせると◯◯の問題が生じるとされていた。本発明は△△によってこれを解決した」と書いておくと、組合せが容易でないことの根拠になります。

進歩性の主張は、出願時の明細書に書いた効果でしか行えません。株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著『自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方』(日本法令・568頁)の第3編 第2章 第1 特許(1)特許願に、(ii)効率的な書類を書く順番、(iii)特許請求の範囲、(iv)明細書が記入例つきで収められています。
審査基準そのものは第3編 第1章(6)審査基準に、(i)概要、(ii)最新の審査基準として扱われています。第4編 第2章 第2(4)発明の3ステップと、特許明細書との関連では、課題・手段・効果の3つを明細書の構成に対応させる方法が示されています。
拒絶理由通知への応答 ── 進歩性の反論
進歩性で拒絶理由通知が来たら、次の順で検討します。
① 引用発明の認定に誤りがないか
審査官が引用文献の内容を正しく読んでいるか。引用文献に書かれていないことを「書かれている」と認定していることがあります。
② 相違点の認定に誤りがないか
審査官が一致点とした構成が、実は違っていないか。
③ 動機づけがないことを主張する
技術分野が違う、課題が違う、引用文献に示唆がない。「組み合わせる理由がない」ことを、引用文献の記載に即して主張します。
④ 阻害要因を主張する
組み合わせると機能しない、技術常識に反する、引用文献自体がその組合せを否定している。
⑤ 有利な効果を主張する
明細書に書いた効果を、引用発明の効果と比較して示します。必要なら、明細書の記載を裏付ける実験成績証明書を提出します(明細書に効果の記載があることが前提)。
⑥ 補正で相違点を明確にする
従属請求項の限定を独立請求項に繰り込む、明細書の記載から限定を加える。出願時の明細書に書いてある範囲でしか補正できません。
応答期限
原則60日(在外者は3か月)。延長は請求で2か月、さらに1か月可能です。
引用発明の認定の誤り、相違点の見落とし、動機づけの不存在、阻害要因、有利な効果。反論の筋は5つあり、どれが使えるかは引用文献を読まないと分かりません。応答期限は原則60日で、出願時の明細書に書いてある範囲でしか補正できません。
初回相談のお申し込みはこちら。拒絶理由通知と引用文献をお持ちいただければ、使える反論と補正案をお示しします。
① 進歩性は「発明の内容」より「効果の書き方」で決まることが多い。
同じ発明でも、明細書に効果を具体的に書いてあるかどうかで、審査の結果が変わります。「効率が向上する」では主張になりません。「従来比40%短縮」と数値で書き、その根拠となる実施例と比較例を入れておく。これがあれば、審査官の「組み合わせは容易」に対して「しかし予測できない効果がある」と反論できます。出願後に効果を追加することはできないので、出願時に入れておくしかありません。ここが、明細書作成で最も手間をかける箇所です。
② 審査官の引用文献の読み方に、誤りがあることは珍しくありません。
拒絶理由通知が来ると、まず補正で対応しようとされる方が多い。しかし最初にやるべきは、審査官が引用文献の内容を正しく認定しているかの確認です。引用文献に書かれていないことを「書かれている」と認定している、文脈を無視して一部だけ抜き出している——こうした例は実際にあります。認定の誤りを指摘できれば、補正で権利範囲を狭めることなく、意見書だけで通ることがあります。補正は、その後です。
③ 阻害要因は、明細書に書いてあれば強い武器になります。
「従来、AとBを組み合わせると◯◯の問題が生じるとされていた」——この一文が明細書にあると、審査官が「AとBの組合せは容易」と言ってきたときに、「業界ではむしろ避けられていた組合せだ」と反論できます。技術常識に反する組合せは、動機づけがないどころか阻害要因がある、として進歩性が肯定されやすい。発明の背景に「常識ではやらないこと」があるなら、明細書の背景技術の欄にそれを書いておいてください。後から足すことはできません。
よくある質問
Q. 特許が認められる条件は何ですか。
発明であること、産業上の利用可能性、新規性、進歩性、先願、記載要件などです。審査で問題になるのはほぼ新規性・進歩性・記載要件で、拒絶理由の大半は進歩性です。
Q. 新規性と進歩性は何が違いますか。
新規性は「出願前に知られていないこと」、進歩性は「知られている技術から当業者が容易に思いつかないこと」です。新しくても、既存技術の組合せや置換にすぎなければ、進歩性で拒絶されます。
Q. 自社で公開してしまいました。
原則として新規性を失いますが、公開から1年以内に出願し、証明書を提出すれば新規性喪失の例外が使えます。ただし、その間に第三者が独自に出願していれば負け、外国では使えない国が多い。
Q. 既存技術を組み合わせただけでは、特許になりませんか。
組み合わせただけでは「容易」とされます。ただし、その組合せで予測できない効果が出ていれば、進歩性は認められます。効果を明細書に具体的に書いてあることが前提です。
Q. 「効果」はどう書けばよいですか。
数値で、比較つきで。「効率が向上」ではなく「従来比40%短縮(実施例1)」。出願後に効果を追加できないため、実験データは出願時に入れておきます。
Q. 進歩性で拒絶されたら、どう反論しますか。
①引用発明の認定の誤り、②相違点の認定の誤り、③動機づけの不存在、④阻害要因、⑤有利な効果、⑥補正で相違点を明確にする。まず①②を確認してから、補正を検討してください。応答期限は原則60日です。
Q. 当業者とは誰ですか。
その技術分野の平均的な技術者を想定した仮想の人物です。特別な才能はないが技術常識をすべて知っており、公知技術を組み合わせる程度のことは普通にできる、とされます。
まとめ
- 特許の要件の中心は新規性と進歩性。拒絶理由の大半は進歩性
- 新規性は「出願前に公然と知られていないこと」。自社の公開でも失う。1年以内なら例外あり
- 進歩性は「当業者が先行技術から容易に発明できないこと」。審査基準の4ステップで判断
- 否定されやすいのは、設計変更・材料置換・単なる寄せ集め・公知技術の転用
- 認められやすいのは、予測できない効果・阻害要因・相反する効果の両立
- 効果は数値で、比較つきで、出願時の明細書に書いておく。後から追加できない
- 拒絶理由への反論は、まず引用発明・相違点の認定の誤りを確認し、その後に補正
- 阻害要因は、明細書の背景技術に書いておくと強い武器になる
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四法(特許・実用新案・意匠・商標)の出願書類の様式と記入例、費用の削減、権利の活かし方までを1冊にまとめた手引きです。著者は当事務所とは別組織の会社の代表ですが、自分で出願を進めたい方に、当事務所の初回相談でもお勧めしています。
自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方
株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著/日本法令/2026年8月刊/A5判568頁/5,500円(税込)/ISBN 978-4-539-73180-2
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