意匠とは?デザインとの関係・登録の要件・新しい意匠の例をわかりやすく解説
意匠とは、物品・建築物・画像のデザインのうち、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法2条1項)。これを特許庁に登録すると意匠権になり、他社が似たデザインを使うことを止められます。
「デザイン」という言葉と重なりますが、同じではありません。意匠法でいう意匠は、見た目のうち「目で見てわかるもの」に限られます。使い勝手の良さや設計思想といった、目に見えない良さは含みません。
そして2020年4月、意匠法は130年ぶりといわれる大改正を迎えました。画像・建築物・内装が、新たに保護対象になりました。アプリの画面も、店舗の外観も、店内の内装も、いまは意匠登録できます。この記事では、意匠の意味から登録の要件、新しい保護対象までを順に説明します。
- 意匠法でいう「意匠」の定義と、日常語の「デザイン」との違い
- 意匠登録が認められるための4つの要件
- 2020年4月から保護対象になった画像・建築物・内装の具体例
- 意匠権と特許権・商標権・著作権の使い分け
- 意匠権の存続期間が25年になった経緯と、起算日の注意点
- 登録にかかる費用と期間
長岡技術科学大学大学院修士課程修了。2001年国内特許事務所入所、2013年弁理士試験合格、2015年群馬工業高等専門学校非常勤講師、2026年SPECIAL FLOWER特許事務所設立。特許事務所において20年以上、電子デバイス・機械要素を中心に国内外の特許出願・拒絶理由対応に従事。この記事は、上記の弁理士が内容を確認しています。
意匠とは何か ── 法律上の定義
意匠法2条1項は、意匠を次のように定めています。
物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物(建築物の部分を含む。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの
長いので、条件に分けます。意匠と認められるには、次の4つをすべて満たす必要があります。
| 要件 | 意味 |
|---|---|
| ① 物品性 | 物品・建築物・画像のいずれかに関するデザインであること |
| ② 形態性 | 形状・模様・色彩、またはその結合であること |
| ③ 視覚性 | 肉眼で見て識別できること |
| ④ 美感性 | 見て美感を起こさせること |
③と④は、思ったより緩い
「視覚性」は、顕微鏡でしか見えないような微細な形状を除くための要件です。肉眼で形が分かれば足ります。 「美感性」も、美しさの程度を問うものではありません。「何らかの美感を起こさせれば足りる」と解されており、機能一辺倒でおよそ美感を生じないもの(工場内の配管がむき出しになっただけの状態など)を除く趣旨です。芸術性が要る、という意味ではありません。ここを誤解して出願をためらう方がいます。
「デザイン」との違い
日常語の「デザイン」は、見た目だけでなく、使いやすさ、設計の考え方、ブランドの世界観まで含みます。意匠法が拾うのは、そのうち「目で見てわかる形」だけです。
| 日常語のデザイン | 意匠法の意匠 | |
|---|---|---|
| 見た目の形 | 含む | 含む |
| 色・模様 | 含む | 含む |
| 使い勝手・操作性 | 含む | 含まない |
| 設計思想・コンセプト | 含む | 含まない |
| ブランドの世界観 | 含む | 含まない |
では、含まれないものはどこで守るのか。使い勝手を実現する仕組みは特許、ブランドの目印は商標です。ここが権利の使い分けになります。
意匠・特許・商標・著作権の使い分け
| 権利 | 守るもの | 取り方 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 意匠権 | 見た目の形 | 出願・登録が必要 | 出願から25年 |
| 特許権 | 技術的なしくみ | 出願・審査請求・登録が必要 | 出願から20年 |
| 商標権 | 商品・サービスの目印 | 出願・登録が必要 | 10年(更新で半永久) |
| 著作権 | 思想・感情の創作的表現 | 創作と同時に発生(登録不要) | 原則、著作者の死後70年 |
量産品のデザインは、原則として著作権では守れません。著作権法が想定しているのは一品制作の美術作品で、工業製品のデザインは意匠法の領域とされています(応用美術の問題として、一部に重なる場面はあります)。「著作権があるから大丈夫」と思って意匠登録をしていない、というのが、最も多い誤解です。
意匠登録が認められるための要件
意匠に当たるだけでは登録されません。次の要件を満たす必要があります。
① 工業上利用できること
同じものを反復して生産できることが必要です。自然物や一品制作の美術品は対象外です。
② 新規性があること
出願前に、日本国内または外国で公然と知られていないことが必要です。自社のウェブサイトやSNSで公開してしまうと、自分の行為で新規性を失います。
ただし救済があります。新規性喪失の例外の適用を受ければ、公開から1年以内の出願であれば、その公開はなかったものとして扱われます。証明書の提出などの手続が必要です。
③ 創作非容易性があること
その分野の通常の知識を持つ人が、公知のデザインから容易に創作できるものは登録できません。単に形を置き換えただけ、寄せ集めただけ、ありふれた手法で変形しただけ、というものが該当します。
④ 先願であること
同じ、または類似する意匠について2以上の出願があったときは、先に出願した人だけが登録を受けられます。
⑤ 不登録事由に当たらないこと
公序良俗に反するもの、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがあるもの、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなるものは登録できません。最後のものは、機能上そうならざるを得ない形を一社に独占させない趣旨です。
展示会に出した、SNSに載せた、クラウドファンディングを始めた。こうした公開の後でも、1年以内なら新規性喪失の例外の適用を受けて出願できます。ただし手続が必要で、放置すると救済が受けられなくなります。
SPECIAL FLOWER IP LAW FIRM の初回相談では、いつ・どこで・どのように公開したかをうかがったうえで、適用の可否と必要な証明書を整理します。
2020年4月から ── 画像・建築物・内装が保護対象に
2019年に成立し、2020年4月1日に施行された改正意匠法で、保護対象が大きく広がりました。それまでの意匠法は「物品」のデザインだけを対象にしていましたが、ここに画像・建築物・内装が加わりました。
画像意匠
従来は、画像が物品(機器)に記録され、その物品の一部として表示される場合しか保護されませんでした。改正後は、物品から離れた画像そのものが対象になります。
- 操作画像:機器の操作に使われる画像。アプリの操作画面、ウェブサイトのUIなど
- 表示画像:機器が機能を発揮した結果として表示される画像。計測結果の表示など
ただし、装飾のためだけの画像や、映画・ゲームのコンテンツそのものは対象外です。壁紙画像やアイコンのデザインそのものは、意匠ではなく著作権や商標で考えることになります。
建築物の意匠
店舗、ホテル、オフィスなど、建築物の外観のデザインが登録できるようになりました。土地に定着した人工構造物であることが要件です。同じ外観の店舗を各地に展開するチェーンにとっては、模倣店対策の直接の手段になります。
内装の意匠
店舗や施設の内装全体を、1つの意匠として登録できるようになりました。複数の什器・壁・床などから構成されていても、内装全体として統一的な美感を起こさせるものであれば、1つの出願で保護されます。
これは実務上とても大きい変更です。従来は、椅子は椅子、棚は棚と個別に出すしかなく、「この空間の雰囲気」を守る手段がありませんでした。

意匠の出願で最も手間がかかるのは図面または写真です。株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著『自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方』(日本法令・568頁)の第3編 第2章 第3 意匠(1)意匠登録願に、図面・写真の書き方が収められています。
本記事で触れた新しい保護対象についても、(v)画像意匠の書き方、(vi)建築物の意匠の書き方、(vii)組物の意匠の書き方、(viii)内装の意匠の書き方として、それぞれ独立した項があります。(x)AIを活用した図面等の作成も収録されています。
意匠権の存続期間 ── 25年になった
同じ2020年4月の改正で、存続期間も変わりました。
| 出願日 | 存続期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 2020年3月31日以前 | 20年 | 設定登録の日から |
| 2020年4月1日以後 | 25年 | 出願日から |
年数だけでなく、起算日も変わっている点に注意してください。従来は登録された日から数えていたので、審査に時間がかかった分は権利期間に食い込みませんでした。改正後は出願日起算なので、審査期間のぶんは実質的に短くなります。25年と20年の差は、見かけほど大きくありません。
なお、意匠権を維持するには毎年登録料を納める必要があります。納付を忘れると権利は消滅します。
2020年の改正で、画像・建築物・内装が保護対象になりました。ところが、この3つは意匠の中でも図面の作り方が難しく、どこまでを権利範囲として描くかで、守れる範囲がまるで変わります。とくに内装は、何を構成要素として含めるかが判断の要です。
初回相談のお申し込みはこちら。写真や図面の下書きをお持ちいただければ、そのまま出願できる形かを確認します。
登録までの費用と期間
| 項目 | 特許庁への費用 |
|---|---|
| 出願料 | 16,000円(1意匠につき) |
| 登録料(第1年から第3年) | 年8,500円 |
| 登録料(第4年から第25年) | 年16,900円 |
弁理士に依頼する場合は、これに加えて出願手数料と成功報酬がかかります。図面の作成が必要な点が特許・商標と大きく違い、図面の出来が、そのまま権利範囲を決めます。
期間は、出願から登録まで平均6か月前後です。早期審査を使えば2か月程度まで短縮できます。特許と違い、意匠には審査請求の制度がありません。出願すれば自動的に審査に入ります。
① 「美感」の要件を気にしすぎる方が多い。
「うちの製品はデザイン性が高いとは言えないので」と出願をためらわれることがよくあります。しかし意匠法の美感性は、美しさの程度を問う要件ではありません。機能上そうならざるを得ない形だけで構成されていない限り、まず満たします。判断が分かれるのは美感ではなく、創作非容易性のほうです。既存のデザインからの距離が問われます。ここを取り違えて、出せるものを出さずにいるのは、もったいない。
② 意匠は「1つ出して終わり」にしないでください。
意匠権の範囲は、登録された意匠とそれに類似する範囲までです。この「類似」は、実務上は思ったより狭い。少し形を変えた模倣品が、類似の外に出てしまうことがあります。そこで使うのが関連意匠です。同じコンセプトのバリエーションをまとめて登録しておくと、その間を埋められます。1件だけの意匠権は、穴が開きやすい。デザインが事業の中心にあるなら、面で押さえる設計をおすすめします。
③ 特許と意匠は、どちらかではありません。
「特許を取るか、意匠を取るか」と聞かれることがありますが、同じ製品で両方取れる場合が少なくありません。仕組みは特許、見た目は意匠です。しかも意匠のほうが早く、安く取れます。特許は審査請求が必要で登録まで数年かかりますが、意匠は平均6か月です。特許の審査を待つ間、意匠権で先に押さえておく、という組み立てが実務では有効に働きます。
よくある質問
Q. 意匠と特許は何が違いますか。
守る対象が違います。意匠は見た目の形、特許は技術的なしくみです。同じ製品で両方取ることもできます。期間は意匠が出願から25年、特許が出願から20年です。
Q. デザインは著作権で守られるのではないですか。
量産品のデザインは、原則として著作権では守りにくいと考えてください。著作権法が想定しているのは一品制作の美術作品です。工業製品の外観は意匠法の領域とされており、「著作権があるから登録は不要」という理解は危険です。
Q. すでに販売している商品でも、意匠登録できますか。
原則としてできません。販売によって新規性を失うためです。ただし新規性喪失の例外の適用を受ければ、公開から1年以内であれば出願できます。手続が必要ですので、できるだけ早くご相談ください。
Q. アプリの画面は登録できますか。
できます。2020年4月から画像意匠が保護対象になりました。機器の操作に使われる画像(操作画像)と、機器が機能を発揮した結果として表示される画像(表示画像)が対象です。装飾だけの画像や、映画・ゲームのコンテンツそのものは対象外です。
Q. 店舗の内装も登録できますか。
できます。同じく2020年4月からです。内装全体として統一的な美感を起こさせるものであれば、複数の什器や壁・床から構成されていても1つの意匠として登録できます。多店舗展開する場合の模倣対策になります。
Q. 意匠権は25年と聞きましたが、いつからの25年ですか。
出願日から25年です。2020年3月31日以前の出願は、設定登録の日から20年でした。年数だけでなく起算日も変わっているので、審査期間のぶんは実質的に短くなります。
まとめ
- 意匠とは、物品・建築物・画像のデザインで、視覚を通じて美感を起こさせるもの
- 美感性は美しさの程度を問う要件ではない。判断が分かれるのは創作非容易性
- 登録の要件は、工業上利用できること・新規性・創作非容易性・先願・不登録事由に当たらないこと
- 2020年4月から、画像・建築物・内装が保護対象に加わった
- 存続期間は出願日から25年(2020年4月1日以後の出願)。起算日が変わっている点に注意
- 公開してしまっても、1年以内なら新規性喪失の例外で救済される場合がある
- 量産品のデザインは著作権では守りにくい。意匠登録が本筋
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四法(特許・実用新案・意匠・商標)の出願書類の様式と記入例、費用の削減、権利の活かし方までを1冊にまとめた手引きです。著者は当事務所とは別組織の会社の代表ですが、自分で出願を進めたい方に、当事務所の初回相談でもお勧めしています。
自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方
株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著/日本法令/2026年8月刊/A5判568頁/5,500円(税込)/ISBN 978-4-539-73180-2
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