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特許と実用新案の違いをしっかり押さえよう|対象・審査・権利行使で比較

公開日 2026年10月5日  監修 弁理士(登録番号 19728)・SPECIAL FLOWER特許事務所 代表 下茂 力

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特許と実用新案は、どちらも技術的なアイデアを守る権利です。違いは、審査があるかないか、権利が何年か、そして権利を行使するときに何が要るかにあります。

よく「実用新案は特許の簡易版」と言われますが、それは半分だけ正しい。取るのは簡単で早くて安い。しかし、使うときには特許より手間がかかります。この非対称を知らずに選ぶと、いざ模倣品が出たときに動けません。

この記事では、対象・審査・費用・期間・権利行使の5つの軸で両者を比べ、どちらを選ぶべきかの判断基準を示します。

この記事でわかること
  • 保護の対象(実用新案には「物品の形状・構造・組合せ」という縛りがある)
  • 審査の有無と、それが登録までの期間・費用に与える影響
  • 権利期間(特許20年・実用新案10年)と起算日
  • 権利行使の違い(実用新案技術評価書が必要になる理由)
  • どちらを選ぶかの判断基準(4つの問い)
  • 実用新案から特許への変更ができる期限
監修 弁理士(登録番号 19728)・SPECIAL FLOWER特許事務所 代表 下茂 力
長岡技術科学大学大学院修士課程修了。2001年国内特許事務所入所、2013年弁理士試験合格、2015年群馬工業高等専門学校非常勤講師、2026年SPECIAL FLOWER特許事務所設立。特許事務所において20年以上、電子デバイス・機械要素を中心に国内外の特許出願・拒絶理由対応に従事。この記事は、上記の弁理士が内容を確認しています。
免責事項 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件に対する法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な案件については当事務所へご相談ください。当事務所は本文書または本文書掲載の情報の利用によって利用者等に何らかの損害が発生したとしても、かかる損害については一切の責任を負うものではありません。

5つの軸で比較する

特許実用新案
対象発明(物・方法・製造方法)物品の形状・構造・組合せに係る考案のみ
審査実体審査あり(新規性・進歩性)実体審査なし(方式・基礎的要件のみ)
登録まで2〜4年2〜3か月
権利期間出願から20年出願から10年
特許庁費用(出願〜登録)約19万円(請求項5)約2.6万円(出願14,000円+登録料3年分)
権利行使そのまま行使できる技術評価書の提示と警告が必要
無効になったときの責任—相手方に損害賠償責任を負うことがある

下の2行が、実用新案の本当の姿です。取りやすさの裏返しとして、使うときの負担が重くなっています。

対象の違い ── 方法は実用新案にならない

実用新案法が保護するのは、「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法1条)です。

  • 実用新案になるもの:工具の形状、容器の構造、装置の部品の組合せ
  • 実用新案にならないもの:製造方法、使用方法、測定方法、化学物質、プログラム、組成物

「方法」は一切対象外です。製造方法を守りたいなら、特許しかありません。

また、「考案」は「発明」より高度性が低くてよいとされています。実務上、この差が効く場面は限られます。特許は「高度のもの」、実用新案は高度でなくてよい、とされていますが、審査がない実用新案では、そもそもこの点が問われません。

特許願と実用新案登録願は、読み替えて書けます
書影

株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著『自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方』(日本法令・568頁)の第3編 第2章 第2 実用新案(1)実用新案登録願には、(ii)特許願と実用新案登録願の読み替えという項があり、特許の書き方をそのまま実用新案に転用する方法が示されています。

(2)実用新案技術評価書には概要・統計・様式が、第4編 第1章 第2 実用新案権には(1)特許権及び実用新案権の効果の差(有効期間・登録料の比較・出願できる内容の制約)と(2)訴訟、警告が、それぞれ一般論と事例つきで収められています。

審査がないことの意味

登録は早い

実用新案は方式審査と基礎的要件の審査だけで登録されます。新規性や進歩性は審査されません。だから出願から2〜3か月で登録され、費用も安い。

しかし「登録=有効」ではありません

実用新案登録は、その考案が新しいこと・容易でないことを特許庁が認めたものではありません。単に「書式が整っていたので登録した」というだけです。

だから、実用新案権は「本当に有効かどうか分からない権利」として扱われます。この点が、権利行使の場面で効いてきます。

実用新案技術評価書

有効性を判断する材料として、実用新案技術評価書を特許庁に請求できます(誰でも、いつでも、何度でも)。特許庁の審査官が先行技術を調査し、新規性・進歩性について評価を示します。

この評価書がないと、権利を行使できません。次章で扱います。

権利行使の違い ── ここが決定的

特許権

登録されれば、そのまま差止請求・損害賠償請求ができます。

実用新案権

実用新案法29条の2により、技術評価書を提示して警告した後でなければ、権利を行使できません。

  1. 特許庁に技術評価書を請求する(1件42,000円+請求項数×1,000円)
  2. 評価書が届く(数か月)
  3. 相手方に評価書を提示して警告する
  4. それでも止まらなければ、差止・損害賠償を請求する

特許なら不要な手順が、実用新案では必須です。模倣品を見つけてから、実際に止められるまでに数か月かかります。

無効になったときの責任

さらに重い規定があります。実用新案法29条の3により、権利行使をした後で実用新案登録が無効になった場合、権利者は相手方に損害賠償責任を負います(技術評価書の評価などに基づいて相当の注意をもって行使した場合を除く)。

「登録されているから」と警告を出し、後で無効になると、こちらが賠償する側に回ります。特許にはない負担です。

実務上の帰結

実用新案権は、「権利を持っている」という事実を示す効果はあるが、実際に行使するには特許より重い権利です。牽制の道具として使い、本気で争うなら評価書を取ってから、という運用になります。

実用新案で模倣品を止めようとしている方へ

実用新案権は、技術評価書を提示して警告した後でなければ行使できません。そして、行使した後で登録が無効になると、こちらが相手方に損害賠償責任を負うことがあります(実用新案法29条の3)。「登録されているから」と警告を出す前に、評価書の内容を確認する必要があります。

SPECIAL FLOWER IP LAW FIRM の初回相談では、評価書の請求から警告の出し方まで、順序を整理します。

どちらを選ぶか ── 4つの問い

問い特許実用新案
① 方法・組成物・プログラムを含むか含むなら特許しかない物品の形状・構造に限る
② 製品のライフサイクルは何年か10年超なら特許数年で陳腐化するなら実用新案
③ 権利を実際に行使する場面を想定しているか想定するなら特許牽制が主目的なら実用新案
④ 進歩性に自信があるかあるなら特許微妙なら実用新案(審査がないため登録はされる)

実用新案が向く場面

  • ライフサイクルの短い雑貨・日用品・玩具
  • とにかく早く「登録済み」の表示が欲しい
  • 予算が限られている
  • 進歩性が微妙で、特許では拒絶される可能性が高い

特許が向く場面

  • 製造方法・ソフトウェア・組成物
  • 10年以上売る製品の中核技術
  • 模倣されたら本気で止めに行く
  • ライセンス収入を見込む(相手は審査済みの権利を求めます)
「特許か実用新案か」を決めかねている方へ

判断の軸は4つです。方法を含むか、製品が何年売れるか、実際に権利行使する場面があるか、進歩性に自信があるか。この4つに答えていただければ、たいてい答えは出ます。そして、実用新案で出しておいて3年以内に特許へ切り替える、という組み立ても可能です。

初回相談のお申し込みはこちら。製品の内容と事業計画をうかがったうえで、どちらで出すか、両方をどう分けるかをお示しします。

併用と切り替え

実用新案から特許への変更

実用新案登録出願を特許出願に変更できます。ただし、出願から3年以内、かつ技術評価書の請求前に限られます。

実用新案登録に基づく特許出願

登録後でも、実用新案登録から3年以内であれば、その登録に基づいて特許出願ができます(実用新案権は放棄します)。

「まず実用新案で押さえ、事業が立ち上がったら特許に切り替える」という組み立てが可能です。ただし3年の期限があります。

同じ内容で両方は取れません

同一の考案について特許と実用新案の両方を持つことはできません。製品の異なる側面(構造は実用新案、製造方法は特許)で分けることは可能です。

登録料

年分実用新案(年あたり)
第1〜3年2,100円+(請求項数×100円)
第4〜6年6,100円+(請求項数×300円)
第7〜10年18,100円+(請求項数×900円)

出願時に第1〜3年分を一括で納めます。特許の第1〜3年分(4,300円+請求項数×300円)より安い。

弁理士はここを見ている

① 実用新案は「取りやすい」のではなく「使いにくい」権利です。
費用が安く、審査がなく、3か月で登録される。ここだけ見て実用新案を選ばれる方が多い。しかし権利を行使する段になると、技術評価書の請求、提示、警告という手順が必須で、しかも無効になればこちらが賠償する側に回ります。取るときの楽さと、使うときの重さが、ちょうど裏返しになっています。「模倣されたら止める」つもりの製品には、実用新案は向きません。牽制の道具として割り切るなら、合理的な選択です。

② 3年の切り替え期限を、カレンダーに入れてください。
実用新案で出しておいて、事業が立ち上がったら特許に切り替える。これは実務でよく使う組み立てです。ただし、実用新案登録に基づく特許出願は、登録から3年以内に限られます。そして、いったん技術評価書を請求すると、出願変更の道は閉じます。この2つの期限を管理していないと、切り替えたいときには手遅れになります。実用新案で出した時点で、3年後の判断日を決めておいてください。

③ 「方法」が入っていないか、最初に確認します。
ご相談で製品の説明をうかがうと、形状や構造の話をしながら、実は「こう使う」「こう作る」という方法に本質があることが少なくありません。実用新案は物品の形状・構造・組合せしか対象にしないので、方法は守れません。形だけを実用新案で押さえても、同じ方法を別の形で実現されれば止められない。本質が方法にあるなら特許です。この見極めを、出す前にやります。

よくある質問

Q. 実用新案は特許の簡易版ですか。
取るのは簡単で早く安いですが、使うときは特許より重い権利です。技術評価書の提示と警告が必要で、無効になれば相手方に損害賠償責任を負うことがあります。「簡易版」という理解は、権利行使の場面では当てはまりません。

Q. 実用新案で製造方法は守れますか。
守れません。実用新案の対象は物品の形状・構造・組合せに限られます。製造方法・使用方法・組成物・プログラムは特許でしか守れません。

Q. 実用新案は審査されないのに、なぜ登録されるのですか。
方式審査と基礎的要件(物品の形状等に係るか、公序良俗に反しないか等)の審査だけで登録されるためです。新規性・進歩性は審査されません。だから「登録=有効」ではなく、有効性は技術評価書で確認する仕組みになっています。

Q. 技術評価書は必ず取らないといけませんか。
権利を行使する(警告する、訴える)ときには必須です。それ以外の場面では不要です。費用は1件42,000円+請求項数×1,000円で、誰でも、いつでも、何度でも請求できます。

Q. 実用新案から特許に変更できますか。
できます。出願から3年以内、かつ技術評価書の請求前であれば出願変更が可能です。登録後でも、登録から3年以内なら実用新案登録に基づく特許出願ができます(実用新案権は放棄)。

Q. 費用はどのくらい違いますか。
特許庁への費用で比べると、特許が約19万円(請求項5、出願から登録まで)、実用新案が約2.6万円(出願14,000円+第1〜3年分登録料)です。実用新案には審査請求料(138,000円+)がないぶん、大きく下がります。

Q. 同じ製品で特許と実用新案の両方を取れますか。
同一の考案について両方は取れません。ただし製品の異なる側面で分けることは可能です。構造は実用新案、製造方法は特許、という組み立てです。

まとめ

  • 実用新案の対象は物品の形状・構造・組合せのみ。方法・組成物・プログラムは特許
  • 実用新案は実体審査なしで2〜3か月・約2.6万円で登録される
  • 登録=有効ではない。有効性は技術評価書で確認する
  • 権利行使には技術評価書の提示と警告が必須(実用新案法29条の2)
  • 行使後に無効になると、相手方に損害賠償責任を負うことがある(29条の3)
  • 権利期間は特許20年、実用新案10年(いずれも出願日から)
  • 判断の軸は、方法を含むか・ライフサイクル・権利行使の想定・進歩性の自信
  • 実用新案から特許への切り替えは3年以内(かつ評価書請求前)

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