秘密保持契約(NDA)とは?締結のメリットや機密保持契約との違いを解説
公開日 2026年11月5日 監修 弁理士(登録番号 19728)・SPECIAL FLOWER特許事務所 代表 下茂 力
ホーム › 知財ライブラリー › 契約 › 秘密保持契約(NDA)とは?締結のメリットや機密保持契約との違いを解説
秘密保持契約(NDA)とは、取引や協業の検討にあたって開示する情報を、目的外に使わず、第三者に漏らさないことを約束する契約です。Non-Disclosure Agreement の頭文字をとってNDAと呼ばれます。
「機密保持契約」「守秘義務契約」と呼ばれることもありますが、法律上の定義に違いはありません。どの名前でも効力は同じです。
ただし、技術を開示する場面では、市販のひな型をそのまま使うと危険です。とくに見落とされるのが2点。ひとつは、NDAを結んでも特許法上の新規性は守れないこと。もうひとつは、開示した技術をもとに相手が発明をした場合、その権利は相手のものになることです。この記事では、NDAの基本から、この2点の手当てまでを説明します。
- NDAと機密保持契約・守秘義務契約の違い(結論:呼び方だけ)
- NDAに最低限必要な条項と、その意味
- NDAを結んでも新規性が守れない理由と、その対処
- 相手が改良発明をした場合に、権利がどちらに行くか
- 片務型と双務型の使い分け、有効期間の決め方
- 収入印紙が不要な理由
長岡技術科学大学大学院修士課程修了。2001年国内特許事務所入所、2013年弁理士試験合格、2015年群馬工業高等専門学校非常勤講師、2026年SPECIAL FLOWER特許事務所設立。特許事務所において20年以上、電子デバイス・機械要素を中心に国内外の特許出願・拒絶理由対応に従事。この記事は、上記の弁理士が内容を確認しています。
NDAとは何か ── 呼び方の違いに意味はない
秘密保持契約(NDA)は、開示した情報を、目的外に使わず、第三者に漏らさないことを約束する契約です。
呼び方は複数あります。
| 呼び方 | 由来 | 効力の違い |
|---|---|---|
| 秘密保持契約 | — | なし (どれも同じ) |
| 機密保持契約 | — | |
| 守秘義務契約 | — | |
| NDA | Non-Disclosure Agreement |
法律上、これらを区別する規定はありません。表題が何であれ、中身の条項で効力が決まります。
いつ結ぶか
- 取引を始める前の情報交換
- 共同開発・業務提携の検討段階
- 製造委託にあたって図面や仕様を渡すとき
- M&Aや資本提携のデューデリジェンス
- 従業員の入社時・退職時(この場合は誓約書の形が多い)
いずれも「渡す前」に結ぶ契約です。渡した後では意味がありません。
NDAに必要な条項
当事務所が配布している技術開示用のひな型は、17条の構成です。核になるのは次の条項です。
① 秘密情報の定義(何を守るか)
ここの書き方で、契約全体の範囲が決まります。方式は2つあります。
| 方式 | 内容 | 長所・短所 |
|---|---|---|
| 限定列挙型 | 「秘密」と表示したものだけを秘密情報とする | 範囲が明確。表示を忘れると守られない |
| 包括型 | 開示した情報すべてを秘密情報とする | 漏れがない。受領側の負担が重く、交渉で削られやすい |
実務では中間を取り、書面・電磁的記録は「秘密」の表示を付す、口頭その他無形の方法による開示は開示時に秘密である旨を告げ、30日以内に書面で特定するという形が一般的です。
② 秘密情報から除かれるもの
次の5つは、通常どの契約でも除外されます。除外がないと、受領側が過大な義務を負い、交渉がまとまりません。
- 開示を受けた時点で既に公知だった情報
- 開示後、受領者の責めによらずに公知となった情報
- 開示時点で既に受領者が保有していた情報
- 正当な権限を有する第三者から、秘密保持義務なく適法に取得した情報
- 秘密情報によらず独自に開発した情報
③ 秘密保持義務と目的外使用の禁止
この2つは別の義務です。「漏らさない」だけでは足りません。漏らさずに自社で使われたら、開示した意味がなくなります。目的外使用の禁止を必ず入れてください。
④ 開示できる範囲
受領者の役員・従業員には開示できるようにしておかないと、実務が回りません。あわせて、グループ会社に開示できるかどうかを決めます。弁護士・弁理士・会計士など、法令上の守秘義務を負う専門家も、通常は除外対象にします。
⑤ 返還・廃棄/⑥ 有効期間/⑦ 差止めと損害賠償
NDAを結んでも、新規性は守れません
ここが、弁理士の立場から最も強調したい点です。
特許を受けるには、出願前に発明が公然と知られていないこと(新規性)が必要です(特許法29条1項)。「NDAを結んで渡したのだから、公然とは知られていない」と理解されている方が非常に多い。しかし、そう単純ではありません。
NDAは、当事者間の債権的な約束にすぎません。相手が約束を破って公開した場合、契約違反として損害賠償は請求できますが、失われた新規性は戻りません。
実務上の手当て
- 開示の前に出願する。これが最も確実です。出願してしまえば、その後に公開されても出願日が確保されています
- やむを得ず先に開示する場合は、開示の記録を残す。日時・対象・方法を書面または電磁的記録で保存します
- 相手方に出願の制限を約束させる(後述)
当事務所のひな型には、この趣旨を確認する条項を入れています。
「甲および乙は、本契約の締結が、秘密情報に含まれる発明等について特許法第29条第1項各号に該当しない状態を当然に確保するものではないことを確認する。開示者は、必要に応じ、開示に先立ち出願を行うものとする。」
一見すると、開示者に不利な確認条項に見えます。しかしこの一文があることで、担当者が「NDAがあるから安心」と誤解したまま技術を渡す事故を防げます。
NDAは、契約違反があったときに損害賠償を請求できる根拠にはなります。しかし失われた新規性は戻りません。相手が約束を破って公開してしまえば、その技術で特許を取ることは、原則としてできなくなります。
技術を外部に開示する予定があるなら、開示の前に出願を済ませておくのが本筋です。SPECIAL FLOWER IP LAW FIRM の初回相談では、開示の予定と技術の内容をうかがい、先に出願すべきか、記録を残して進めるかを整理します。

NDAでは新規性を守れない以上、開示に先立って出願しておくのが確実な手当てです。株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著『自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方』(日本法令・568頁)に、特許願の書き方が記入例つきで収められています。
本記事に関係するのは第3編 第2章 第1 特許(1)特許願(特許請求の範囲・明細書・図面・願書)と、第4編 第2章 第1 特許権(2)営業秘密(特許権と営業秘密の使い分け)、(3)先使用権です。秘匿を選んだ場合に必要になる証拠化についても扱われています。
相手が改良発明をしたら、誰のものか
もう一つ、汎用ひな型に入っていない論点です。
開示した技術をもとに、受領者が改良した発明をした場合、その発明をしたのは受領者です。特許を受ける権利は、原則として発明者に発生します。つまり、自社の技術を渡した結果、その改良版の権利が相手方のものになるということが起こり得ます。
さらに、相手方がその改良発明を出願して特許を取ると、自社がその改良を実施できなくなる場合すらあります。
手当ての条項
「1 受領者が、本目的の遂行の過程において、開示者の秘密情報に基づき、または当該秘密情報を利用して発明、考案、意匠の創作その他の知的財産(以下「改良発明等」という。)をなしたときは、受領者は遅滞なくその内容を開示者に書面により通知する。
2 改良発明等に係る特許を受ける権利その他の知的財産を受ける権利は、〔開示者に帰属する/両当事者の共有とし、持分は協議のうえ定める〕。」
〔 〕は、力関係と場面によって選びます。一方的に開示する場面では開示者帰属、双方が技術を持ち寄る場面では共有が現実的です。
出願の制限もセットで
「受領者は、開示者の書面による事前の承諾なくして、秘密情報または改良発明等について、特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願または商標登録出願を行ってはならない。」
これは冒認出願(権利のない者による出願)を防ぐ条項です。実際に、共同開発の相手や製造委託先が勝手に出願する事故は起きています。
開示した技術をもとに相手が改良発明をした場合、その権利は原則として相手のものです。そして相手がそれを出願して特許を取ると、自社がその改良を実施できなくなることすらあります。
当事務所が配布している技術開示用の秘密保持契約書(17条)には、改良発明等の帰属と出願の制限の条項が入っています。初回相談のお申し込みはこちら。ひな型をお渡しし、案件に合わせて〔 〕の選択までご一緒します。
片務型と双務型、有効期間の決め方
片務型か双務型か
| 型 | 内容 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 片務型 | 一方だけが秘密保持義務を負う | 一方的に情報を開示するとき |
| 双務型 | 双方が義務を負う | 相互に情報を出すとき。実務ではこちらが多数 |
検討段階では、相手から何も出てこないつもりでも、実際には会話の中で相手の情報も入ってきます。迷ったら双務型にしておくほうが、後の交渉が楽です。
有効期間
契約自体の期間と、義務の存続期間は別に定めます。
- 契約の有効期間:1年〜3年が一般的
- 秘密保持義務の存続期間:契約終了後3年〜5年。営業秘密として長く守りたい情報なら、もっと長く
「無期限」とする例もありますが、受領側が嫌がるため交渉になります。実務では、情報の種類で分ける(製造方法は無期限、価格情報は3年、など)ことも行われます。 改良発明の帰属と出願の制限も、存続条項に入れてください。契約終了と同時に効力を失うと、意味がなくなります。
収入印紙・電子契約・実務上の注意
収入印紙は不要です
秘密保持契約書は、印紙税法の課税文書に該当しません。収入印紙は不要です。ただし、業務委託や売買の条項が混ざっている場合は、その部分で課税文書になることがあります。
電子契約でも有効です
署名・押印は法律上の要件ではありません。電子契約サービスで締結しても効力に問題はありません。
結ぶ「前」に渡してしまっていたら
よくある事故です。この場合、契約書に「本契約締結前に開示された情報も、本契約の対象とする」という遡及条項を入れて対処します。ただし相手の同意が要ります。
結んだ後に、記録を残すこと
NDAは結んで終わりではありません。いつ・何を・どの方法で渡したかの記録が、争いになったときの決め手になります。この記録は、特許法79条の先使用権を主張する場面でも使えます。
① NDAは、新規性を守る道具ではありません。
最も多い誤解です。NDAは当事者間の約束にすぎず、相手が破ったときに賠償を請求できるだけです。いったん公開されてしまえば、その技術で特許を取ることは原則としてできません。賠償金は入るかもしれませんが、権利は戻らない。「NDAを結んだから見せても大丈夫」という判断を、現場でしていないかを確認してください。順序は、出願してから開示する、です。
② 改良発明の条項がないひな型を、そのまま使わないでください。
市販のひな型・無料配布のひな型には、改良発明の帰属を定めた条項がほぼ入っていません。ところが、技術を開示する場面ではここが本体です。自社の技術を渡した結果、その改良版の権利が相手方に発生し、相手が出願して特許を取り、こちらが実施できなくなる。この事故は実際に起きています。汎用ひな型は、技術を伴わない取引を前提に作られていると考えてください。
③ 開示の記録が、後で効いてきます。
いつ・何を・どの方法で開示したか。この記録を取っている会社は多くありません。しかし争いになったときに、こちらが持っていた技術であることを示す証拠になります。さらに、他社に先に特許を取られた場合でも、特許法79条の先使用権を主張する材料になります。電子公証やタイムスタンプを使えば、費用をかけずに日付を確定できます。顧問先には、開示の都度、簡単な記録を残していただくようお願いしています。
よくある質問
Q. NDAと機密保持契約は違いますか。
違いません。呼び方の違いだけで、法律上の効力に差はありません。守秘義務契約も同じです。表題ではなく、中身の条項で効力が決まります。
Q. 収入印紙は必要ですか。
不要です。秘密保持契約書は印紙税法の課税文書に該当しません。ただし、業務委託や売買の条項が混ざっている場合は、その部分で課税されることがあります。
Q. 有効期間は何年にすべきですか。
契約の有効期間は1〜3年、秘密保持義務の存続期間は契約終了後3〜5年が一般的です。営業秘密として長く守りたい技術情報であれば、より長く設定します。情報の種類ごとに期間を分ける例もあります。
Q. NDAを結べば、特許の新規性は守られますか。
いいえ。守られません。NDAは当事者間の約束であり、相手が破って公開した場合、賠償は請求できても新規性は戻りません。技術を開示する前に出願を済ませておくのが確実です。
Q. 相手が私たちの技術をもとに発明したら、権利はどちらのものですか。
契約に定めがなければ、発明をした相手方のものです。だから、改良発明等の帰属を定める条項が必要になります。開示者に帰属させるか、共有にするかは、場面と力関係で選びます。
Q. もう情報を渡してしまいました。いまからNDAを結べますか。
結べます。その場合、「本契約締結前に開示された情報も本契約の対象とする」という遡及条項を入れます。ただし相手の同意が必要です。早めにご相談ください。
Q. 片務型と双務型は、どちらがよいですか。
迷ったら双務型です。一方的に開示するつもりでも、検討の過程で相手の情報も入ってくるのが実際です。双務にしておくほうが、後の交渉が楽になります。
まとめ
- NDA・秘密保持契約・機密保持契約・守秘義務契約は、呼び方が違うだけで効力は同じ
- 必要なのは、秘密情報の定義・除外事由・秘密保持義務・目的外使用の禁止・開示できる範囲・返還廃棄・有効期間
- NDAを結んでも、特許法上の新規性は守れない。開示の前に出願するのが本筋
- 相手が改良発明をした場合、契約に定めがなければ権利は相手方のもの
- 改良発明等の帰属と出願の制限は、存続条項に入れておく
- 迷ったら双務型。有効期間は契約1〜3年、義務の存続3〜5年が目安
- 収入印紙は不要。電子契約でも有効
- いつ・何を・どう渡したかの記録が、争いと先使用権の両方で効く
関連記事
- 秘密保持契約書(NDA)の雛形とテンプレ|契約書に規定すべき内容もわかりやすく解説
- 秘密保持契約書のテンプレート|技術情報を開示するときに足す条項つき
- 秘密保持条項とは?期間・開示できる範囲の例文とレビューポイント
- 秘密保持契約とNDAの違いは?呼び方・効力・記載内容をわかりやすく解説
- 営業秘密とは?不正競争防止法の営業秘密侵害罪をわかりやすく解説
- 冒認出願とは?対応措置や商標権の移転・無効が認められた事例を紹介

四法(特許・実用新案・意匠・商標)の出願書類の様式と記入例、費用の削減、権利の活かし方までを1冊にまとめた手引きです。著者は当事務所とは別組織の会社の代表ですが、自分で出願を進めたい方に、当事務所の初回相談でもお勧めしています。
自分でできる 特許(実用新案・意匠・商標)出願の手続きと活かし方
株式会社SPECIAL FLOWER COMPANY 代表取締役会長 井澤 佑斗 著/日本法令/2026年8月刊/A5判568頁/5,500円(税込)/ISBN 978-4-539-73180-2
ご自身で進めるのが難しいとき、どの権利で取るべきかから相談したいときは、当事務所にご相談ください。特許・実用新案・意匠・商標の出願から、取った権利の活かし方までお手伝いします。
おすすめの記事


